HOME > ゴルフに関するデータと用語集 > なぜゴルフでヤードが使われる
ゴルフコースでは「ヤード(yard)」という日本人には馴染みのない距離の単位が使われています。メートル法に直すと『1ヤード=91.44cm』となるので、200ヤードだと200メートルに少し足りない(約183m)という感じになります。
初心者の人は大抵が「ヤード」という謎の単位に戸惑います。この違和感・とっつきにくさが、ゴルフというスポーツの敷居を上げ、新規プレーヤー・新規視聴者を妨げる理由の一つとなっている事は疑いようがありません。
ゴルフで「ヤード」という単位が標準で使われる理由は、イギリス発祥&アメリカで発展したスポーツだからです。17世紀までは、長さを表す単位は世界中で様々な種類がありましたが、1875年にフランスで「メートル条約」が締結されて以降、ほとんどの国は長さの単位をメートルに統一してきました。ところがイギリスとアメリカ(及びその隣国のアイルランドやカナダ)では、未だに国内では「ヤード・ポンド法」が使い続けられています。
※なぜかゴルフ場で使われ続ける「ヤード」という単位。
日本でも1903年に初のゴルフ場が作られて以来、ずっとヤード表示でした。しかし実は、日本でもゴルフ場の単位が「メートル」に直された時期があります。1976年から1984年の間は、通産省(現在の経済産業省)の勧告により、ヤードだった表記が全てメートルに直されたのです。
ゴルフ場では、スコアカードからヤーデージ杭まで、様々なものをメートルに直す必要に迫られたので、かなり大変だったようです。当時はバブル景気の直前、ゴルフ場も繁盛していた時代なので各種コストも捻出できましたが、もし現在ならとても対応できなかったでしょうね。
※皆さんは「プロゴルファー猿」という漫画を知っていますか? 藤子不二雄原作でテレビアニメとして放映されたので、アラフォー世代の人なら「子供の頃にゴルフを覚えたきっかけだ」という人も多いでしょう。そのプロゴルファー猿のテレビアニメでは、飛距離の単位は「メートル」でしたが、漫画版ではヤード表示の時期もあるなど、表記が混在しています。連載期間の途中で、上記の通産省の通達があった事が理由と思われます。
このように日本のゴルフ界は、一度「メートル」に統一されたのですが、その後再び「ヤード」表記に戻ります。ヤード表記になれていたプロやベテランゴルファーから不満が多かった事や、ゴルフの母国=イギリスや、ゴルフ大国=アメリカの表記がヤードのまま事が理由です。
実は現在、世界では多くの国がゴルフ場でもメートルを距離単位にしています。メートル法発祥のフランスは言うまでもなく、オーストラリアやニュージーランド、韓国などもメートル表記です。また様々な国の外国人観光客に対応すべく、ヤードとメートルを併記するゴルフ場も世界的に増えているようです。しかし、英米はなぜかこのグローバル化の波に逆らっています。
イギリス人は無闇にプライドが高く、アメリカ人は「俺達がグローバルスタンダードだ!」というジャイアン思考であることは、ご存知の通りです。彼らは、世界中であらゆるスポーツがメートル法に統一されているにも関わらず、自国内ではなぜか頑なにヤードポンド法を使い続ける「困ったちゃん」なのです。
陸上競技の国際大会では「100m走」「1500m走」などと当然メートル表記ですが、アメリカ国内では「1マイル走(1609m)」なんて珍妙なものが根強く残っています。また野球(メジャーリーグ)では、球場の広さは「フィート」で、投手の球速は「マイル」で表示されますよね。選手達のプロフィールなども「185センチ・90キロ」ではなく「6フィート1インチ・200ポンド」とヤードポンド法で記されます。
※チャップマンの世界最速の球=169km/hも現地では105マイルと表示。
あるいは競馬でも、日本を含め世界中全ての国がメートル単位で距離を決めますが、アメリカ(カナダ)とイギリス(アイルランド)だけが頑なに「ハロン・ヤード」を単位としています。もっと酷い例では、アメリカンフットボールは「4回の攻撃で10ヤード前進」と、基本ルールから既にヤード単位が前提です。これがアメフトが世界で全く普及しない理由の一つでしょう。
このように英米人の俺様文化は、世界から見れば異質です。日本は、野球や競馬など大半の競技でメートル法に準拠しましたが、残念ながらゴルフだけは、ヤードポンド法という時代遅れの方式に染まっているのです(しかも一度、脱する機会があったのに!)。
ゴルフの世界というのは、かつてはアメリカとイギリスが全てでしたが、近年は世界中で嗜まれるスポーツになりました。4大大会を制する選手や世界ランキング1位の選手も、南アフリカ(アーニー・エルス)、ジンバブエ(ニック・プライス)、フィジー(ビジェイ・シン)、メキシコ(ロレーナ・オチョア)、タイ(アリヤ・ジュタヌガーン)、韓国(シン・ジエら多数)、などと新興国・途上国からも多数生まれています。ゴルフは間違いなく、世界で最もグローバルなスポーツだと言えます。
昨今のインバウンド増加により、日本のゴルフ場にも外国人観光客がプレーするケースも増えています。ましてや、ゴルフはオリンピックの正式種目に返り咲き、2020年にはそれが東京で開催される訳です。日本のゴルフ界がバブル期にメートル法を捨て、ヤードという一般人に理解されない単位を使い続けていた事は、大きな損失だったのではないでしょうか?