HOME > ゴルフの物理学 > 速いバックスイングで飛距離は出るが・・・
ゴルフクラブを振り上げるバックスイング(テイクバック)のリズムは、プロゴルファーでも人によって様々です。宮里藍やイ・ボミのようにゆっくり上げる人、松山英樹のようにトップで一旦制止する人も居れば、タイガーウッズやジャンボ尾崎のように凄く速い人も居ます。
つまりゴルフで良いスコアを目指す上では、ゆっくりだろうが、速く上げようが、正解も間違いもありません。ところが「バックスイングは速く上げろ!」と強調するレッスンプロも少なくないです。当サイトでも紹介している『魚突きドリル』で人気の山本道場でも「マッハで上げろ!」と強調しています。
確かに飛距離だけを求めるなら、バックスイングは速くした方が有利です。ジャンボ尾崎プロも「飛ばしたければ速く上げろ!」と常々言ってますし、弟子の原英莉花プロも速いバックスイングで日本の女子プロではトップクラスの飛距離を記録しています。
何より、ドラコンプロでゆっくりテイクバックする人はほぼ居ません。ドラコンのトップレベルの選手達は皆、ビックリするぐらい速く振り上げますから、飛距離アップと速いバックスイングは、物理的な関連性が高いと言えるのです。
※ドラコン王=南出仁寛プロもバックスイングが超速い!
しかし当サイトでは、アマチュアゴルファーがこの「速いバックスイング」を真似することは、あまりお勧めしません。速いバックスイングを試しても良い条件は、最低でも80台のスコアが出せる中級者以上の人です。
★関連ページ;ゆっくりバックスイングすればショットが安定する!
理由は、100前後をさまよっているアベレージゴルファーが速く振り上げようとすれば、身体が伸び上がる(重心が上がる)、大きく左右へスウェーする・・・など、ほぼ100%バランスを崩すので、ミート率が激減するからです。
バックスイングで発生する力(物理的にいうと慣性力)は、アマチュアが考えているよりも遙かに大きな力です。「ハーフスイング(シャフトが地面と平行な位置)で止めてみて」と指導しても、アマチュアの大半がオーバースイング〜肩の高さ以上まで上がります(一度試してください)。物体が動いた勢いは、ゴルフクラブのような軽いものでも、簡単には止まらないのです。
バックスイングで引っ張られる力は、意外ですが実は非常に大きいのです。なのに「速く上げろ!」と言えば、慣性力が大きすぎて、バランスを崩すのは当然なのです。
もう一つ、お勧めしない理由は、スイングのリズムが変わってしまうからです。
ゴルフでは、一定のテンポ・リズムを保ってスイングすることが非常に重要です。常に同じリズムなら、ショットの再現性が高まるからです。トッププロを何人も育て上げている坂田塾では、動画のように「リズムを常に一定に保つこと」が絶対の教えなのだそうです。
※坂田塾の教えを語る古閑美保プロ。
自分のリズムを統一することは、他にも多くのプロゴルファー・レッスンプロが教えていますし、当サイト管理人も賛同しています。人間の行う動作で再現性を高めるためには、体内時計のテンポ・リズムを狂わさないのは絶対条件です。
速いバックスイングはドライバーではメリットがあっても、アイアン(ユーティリティ)のショットでは完全に無意味です。アイアンは飛距離目的のクラブではなく、正確性と距離を打ち分ける事が目的です。ましてやアイアンは、2打目以降に打つことが大半のクラブなので、ラフやバンカーだったり、つま先上がりやら左足下がりやらと、状況もバラバラです。ゆっくりバックスイングして、正確にミートすることを心がける方が良いのは明らかです。
当サイトでは、初心者はドライバーとアイアンは同じ打ち方で無くても良いとの立場ですが、スイングのテンポはできるだけ統一した方が、大崩れしにくいのは間違いないです。アイアンはゆっくり、ドライバーは速く・・・とバックスイングのリズムを変えると、アイアンが段々速くなったり(その逆も)とリズムが狂って収集がつかなくなる恐れもあります。
ですから、アマチュアゴルファーで速いバックスイングを試して良い人は、中級者以上限定だと言えるのです。冒頭で紹介した山本道場の「マッハでバックスイング」も、途中で体を使って急ブレーキを掛けてヘッドを走らせるという、かなり高度な技術なので(しかも感覚的で初心者には分かりにくい)、アベレージゴルファーには難しいです。