HOME > ゴルフの物理学 > 止まるバックスピンの打ち方
ボールがグリーンでピタッと止まる、バウンドした後強烈に戻る、そんなバックスピンショットは、実利はなくとも格好良いので、多くのゴルファーの憧れるプレーです。このページでは、そんなバックスピンショットの打ち方を、物理的な側面も含めて解説してみます。
★注意!当ページのバックスピンショットとは、あくまで100ヤード以上あるようなフルショットについてです。2〜30ヤードのアプローチでスピンを効かせる方法は、実は打ち方が異なる点があるので、当ページでは対象外です(改めてページを設ける予定)。
まず大前提として、同じバックスピン量でも高く上がった球ほど、止まりやすい(戻りやすい)です。地面にバウンドする際の入射角が浅いほど前進する力が大きい、逆に言えば上から落ちる(垂直に近い入射角)ほどボールの前進する力が弱まるからです。よってウッドやロングアイアンよりも、球が高く上がるショートアイアンやウェッジの方が、バックスピンで止まる球・戻る球は打ちやすくなります。
同様に、グリーンが下り傾斜だったり、追い風が吹いていると、バウンドする入射角が浅くなるので、バックスピンで戻るような球は打ちづらいです。特にフォローの風は、球が押されてバックスピンがほどける効果が生まれるので、飛距離は伸びますがボールは止まりづらくなります。またラフからのショットは、フライヤー(インパクトでボールとの間に芝が入って、クラブフェースの溝が使えず摩擦が減る)の影響で、スピンが減りやすくなります。
条件を確認したところで、実際の打ち方について。バックスピンショットの打ち方で最も重要なのが、ダウンブロー軌道であることです。球が戻るほどの強烈なバックスピンを掛けるには、クラブのリーディングエッジでボールの赤道より下を打ちぬく必要があります。多くのアマチュアがやりがちな、ボールの手前をダブり気味にヒットする「すくい打ち」では、強いスピンは掛かりません。必ずボールの赤道より下を、ダフらず直接打つ必要があります。いわゆるダウンブロー軌道が、ピタッと止まるショットやバックスピンショットには必須です。
そして更にスピン量を増やすには、ボールへの入射角を鋭角にする、上から打ち込む軌道にする必要もあります。卓球のカット打ちやテニスのスライスショットのように、上から切り下ろすようなスイングだと、ボールには強烈な逆回転が掛かる訳です。
そしてゴルフボールを鋭角に打つには、アウトサイドイン軌道を意識する事がポイントです。人体の構造上、アウトサイドから振れば必ず鋭角なダウンブロー軌道になり、逆にインサイドから振ろうとすれば必ず軌道はフラットに払い打つような軌道になります。だからバックスピンショットを打つ時には、あえてスライスを打つようにアウトサイドから鋭角に振り下ろす方が有効です。フェースを開くと共に、オープンスタンスでカット打ちするように振れば、スピン量はより増えるのです。
※2〜30yの短いアプローチショットの場合は、フェースを開いて、払い打つようにヘッドを低く長く出し、フェースの上にボールを乗せて駆け上がらせる(ボールの下側を押していく)ような打ち方の方が、簡単にスピン量を増やせます。ですが100ヤードを超えるフルスイングのショットになると、ボールとフェースとの接触時間が短くなるので、このような打ち方は難しくなります。ロングショットでは全く逆に、ヘッドを上から鋭角に打ち込む方がスピンが掛けやすいのです。
そして更にスイング軌道を鋭角にするには、手首のコックを多めに使うよう意識することです。手首を親指側に折る「コック」を球にヒットする直前まで、ギリギリまで溜めるほどスイング軌道が鋭角になるからです。あの石川遼プロもテレビ番組で、バックスピンを掛けにいく時は「コックを多めに使って鋭角に入れていく」と言っています。
注意点として、鋭角に打ち込みたいからと、球を右足寄りにアドレスするのはダメです!球を右足側におくほど、クラブのロフトが「立つ」ので、打ち出し角が低くなってスピン量が増えても止まりにくくなります。
最初に書いたように、同じバックスピン量でも、高く上がった球ほど戻りやすい(止まる)です。地面にバウンドする際の入射角が浅いほど前進する力が大きい、逆に言えば上から落ちる(垂直に近い入射角)ほどボールの前進する力が弱まるからです。だからフェースを開くことや、元々打ち出し角が高くなるショートアイアンやウェッジでは、バックスピンで戻る球は打ちやすいのです。
左足寄りにアドレスする方が、打ち出し角が高くなるので、戻るバックスピンを実現しやすいですが、今度は上から鋭角に打ち込むのが難しくなります(身体が前に突っ込みやすくなる)。従ってアドレスのボールの位置は、オーソドックスに両足の真ん中付近に構えるのがベターです。
ボールが戻るバックスピンショットの打ち方まとめ
・ダウンブロー軌道でボールの赤道より下を直接打つのが必須!
・アウトサイドイン軌道や手首のコックを使うほどスピンが増える
・打ち出し角を高くする。右足寄りのボールの位置はNG!
・フェースを開く方が打ち出し角が高くなって、球が戻りやすい
・ボールの種類も影響が大きい(後述)
男子のトッププロの試合では、強烈に球が戻るバックスピンショットをよく見かけますよね。ヘッドスピードもバックスピン量に大きく影響するので、アマチュアには真似できないのも当然です。しかし打ち方云々以前の問題として、アマチュアとプロゴルファーでは、バックスピンの掛かりやすさが物理的に違うのも事実です。
というのは、バックスピンショットを打つプロゴルファーの大半は「スピン系」のボールを使っていることの影響です。市販されているゴルフボールには、大別してスピン系とディスタンス系という二種類があります。そして大半がディスタンス系のボールなので、アマチュアゴルファーは自然と多くの人がディスタンス系のボールを使っているはずです。
ディスタンス系のボールは、飛距離性能を重視した設計で、スピン量が減るように作られています。ですから飛距離は出やすいし、左右にも曲がりにくいですが、球が戻ってくるようなバックスピンショットは、物理的に打つのが難しいのです。
逆にスピン系のボールは、飛距離は少し劣ります(球が吹け上がりやすい)が、その分バックスピンショットは打ちやすいのです。プロのトーナメントのグリーンは、我々アマチュアがプレーするパブリックなゴルフ場に比べて1.5〜2倍も早い(スティンプメーターの値が大きい)ので、プロゴルファーはボールを止めやすいスピン系のボールを好んで使うのです。
プロゴルファー使用率が高い「タイトリスト・PRO V1 」や「スリクソン・Z-STAR XV 」などが、典型的なスピン系ボールです。この手のボールは、ヘッドスピードが遅い(概ね43m/s以下)と飛距離ダウンの影響が大きいとされ、またサイドスピンも掛かりやすいので、スライスやフックも大きく曲がってOBになりやすいデメリットもあります。よって中級者以上でないと性能を引き出せないかもしれませんが、バックスピンは抜群に掛かります。
ボールが戻るほどの強烈なバックスピンを打ちたい人は、ダウンブロー軌道やコックの使い方を意識すると共に、スピンが掛かりやすいボールに変更することも有効になります。