HOME > ゴルフの物理学 > フェースは開くより閉じる方が難しい
ゴルフクラブには、番手毎にロフト(角度)の違いがあり、主にこの差によって飛距離の打ち分けを行う仕組みです。一方で、グリップを回転させて握る事で、フェースを閉じて構えたり、開いて構える事も出来ます。
フェード(スライス)を打つ時はフェースを開き、ドロー(フック)を打つ際にはフェースを閉じます。しかしフェースの開閉は単に球を曲げるだけではなく、飛距離のコントロールも行えます。プロゴルファーなど上手な人は、例えば7番アイアンのフェースを開いて8番や9番の飛距離に落としたり、逆にフェースを閉じて6番や5番の距離に伸ばしたりもできます。
ゴルフマンガなどでは、フェースを開閉させて自在に球を操るキャラクターも良くいます。大人気マンガ「オーイ! とんぼ」の主人公など、3鉄一本を開いたり閉じたりしてプレーする天才児として描かれていますよね。
しかしフェースを開く事と閉じる事では、実は天と地ほどの難易度の差が生じるのを、理解していないアマチュアゴルファーは少なくありません。一言でいうと、フェースを開いて打つのは簡単ですが、閉じて打つのは物理的にミスショットが起こりやすく、圧倒的に難しいです。
【写真1】フェースを開くと、ソールが接地してリーディングエッジが浮く
フェースを閉じたショットが難しい理由は、まずザックリ(酷いダフリ)が起きやすい事です。フェースを開いて構えると、上の【写真1】のようにソール(底面)のお尻の部分が地面に設置します。ソール部分はラウンド(丸み)があるので、少々ボールの手前の地面から入っても滑ってくれるので、ダフリにくいのです。
【写真2】フェースを閉じると、リーディングエッジから地面にザックリ刺さる
しかしフェースを閉じると、上の【写真2】のようにソール部分は浮いて、逆にリーディングエッジ(底面の先端)から入っていきます。よって、少しでもボールの手前の地面に当たると、芝の中に埋まるようにダフリ(ザックリ)になる確率が高いのです。
しかもフェースを閉じると、そのままではアドレスでフェースが左を指すので、多くのアマチュアは向きがスクエアになるようボールを右足寄りにセットしがちです【写真3】。ところが、ボールの位置が普段より右になると、過度のハンドファースト=ダウンスイングの下降途中でボールにヒットする軌道になるので、手前をダフると強烈なザックリになるのです。
【写真3】過度のハンドファーストはザックリの元凶です。
※フェースを閉じる際には、球を右足側にセットするのではなく、球の位置はそのままでアドレス(足や身体の向き)を右向きに構えて、フェースだけが目標に合うようにセットアップするのが、正しい方法です。
そもそもフェースを閉じるとロフト角が立つので、ショットの精度が落ちます。7番アイアンより5番アイアンの方が難しいのは、ロフトが立つほどサイドスピンが掛かりやすくなり、左右のブレが大きくなるからです。また球が上がりにくくなり、芯を外した時の飛距離ロスも大きくなります。よってフェースを閉じるほど、正確なショットを打ちづらくなる訳です。
またフェースを閉じると、視覚的にクラブの横幅が狭く感じます。特にソケット部分がボールに近くなるので、シャンクしやすい(しそうに感じる)事も問題点として挙げられるでしょう。物理的にだけでなく、心理的にもフェースを閉じる事は難しいのです。
フェースを閉じると難しいのは、フルスイングのショットに限らず、グリーン周りのアプローチでも同じです。上級者の人には、アプローチはサンドウェッジ一本しか使わず、転がして寄せる時もロフトを立てて打つ、という人が居ますが、初心者は真似しない方が良いです。
サンドウェッジを右足寄りで構えてロフトを立てれば、ランニングアプローチを打てますが、上記で解説した通り、ソールが滑っていかないので、少しでもダフれば酷いザックリになります。長年の蓄積でスイングが安定しているベテランゴルファーはともかく、練習量の少ない一般アマチュアは、転がして寄せたい時はピッチングウェッジや9番アイアンなど、そもそもロフトの立ったクラブを使うべきです。
セルフプレーでラウンドする際は、複数のウェッジを持ってプレーするのは大変ですが、その手間を惜しんでいてはスコアアップは遠のくばかりですよ。
フェースは開くより閉じる方が難しい、まとめ
・フェースを閉じるとソールが使えないので、ザックリが起きやすい
・フェースを閉じるとロフトが立つので、左右への曲がり幅も増える
・フェースを閉じるとシャンクも起きやすい
このように、ゴルフでフェースを閉じて打つ事は、物理的に難しい行為なのです。確かにティーアップしたショットなら、ザックリする確率は低いので、ドライバーではあまり関係ないです。しかし地面から打つアイアンショットは、フェースを閉じて打つ事はアマチュアゴルファーには難易度が高いので、特に初心者の人は絶対に控えるべきです。
例えば「8番か9番か微妙な距離だなぁ・・・」というような場面では、9番を閉じ気味に打つのではなく、8番アイアンを開き気味にして打つ方が、ミスになる確率が少ないのです。微妙な距離は、大きめのクラブでフェースを開き気味にして打つことが、アマチュアゴルファーのコースマネジメントでは絶対の法則だと言えます。