HOME > ゴルフの物理学 > 伸張反射を使うスイングとデメリット
近年ではゴルフスイングでも様々な研究が進み、色んな方法論が唱えられています。そんな中の一つに「筋肉の伸張反射を使って飛ばせ!」という理論があります。確かに多くの飛ばし屋のプロゴルファー達が、伸張反射を使って飛距離を稼いでいるのですが、この打ち方にはデメリットもあるので注意が必要です。
伸張反射とは、筋肉が「反射的に」縮む性質の事を言います。筋肉というのは、伸びた状態から縮む時に力を生み出します(逆はありません)。腕でダンベルを持ち上げる際に、上腕に「力こぶ」が出来ますよね?あれは、腕の前部にある「上腕二頭筋」が縮んで、物を持ち上げる力を生み出しているのです。
※逆に腕を伸ばす際には、上腕二頭筋は伸びる(=力を出せない)一方で、腕の裏側にある上腕三頭筋が縮むことで力を生んでいます。
加えて筋肉には、限界まで伸ばしきった状態だと、反射的に一気に縮もうとする性質もあります。例えば「垂直跳び」するときを思い出して下さい。ジャンプする時に、膝を曲げて腰を折り、屈み込んでから飛んだ方が、高く飛べますよね? あれは屈み込んだ際に、足の前側の筋肉〜太股の大腿四頭筋や下肢の前頸骨筋が目一杯伸びた状態になっており、それらの筋肉が一気に縮もうとする作用で、大きな力が生まれる=高くジャンプできるという理屈なのです。
この筋肉が一気に縮もうとする作用を、伸張反射と呼ぶのです。
ゴルフスイングでは「左肘を曲げずにピンと伸ばせ!」とか「右膝の位置を変えるな!」などとレッスンされます。これは、左肘を伸ばしたままバックスイングすれば、左肩の後ろ側の筋肉〜広背筋や僧帽筋などが大きく引っ張られて、伸張反射を生みだすことが一つの狙いなのです。同様に、右膝を固定してバックスイングすれば、身体が捻転されて腹斜筋や脊柱起立筋など、体幹の筋肉が伸ばされて伸張反射を生むのです。
★伸張反射=捻転の大きなスイング
日本のゴルフ界では「左サイドが重要」「左手リードで振る」という理論が主流ですが、左肩や左腰の筋肉を伸張反射して使う事と合致しますね。また「トップでは身体が苦しいと感じる体勢ほど良い」などもレッスンされますが、これも身体の関節の幾つかを固定して捻転すれば、伸張反射が起きて大きなパワーを生むという理屈です。
確かにロリー・マキロイやダスティン・ジョンソンなど、飛ばし屋のプロ達は皆、身体の筋肉〜特に左サイドの筋肉を目一杯伸ばして使っています。では我々アマチュアゴルファーも、伸張反射を活用してスイングすべきでしょうか?
貴方が30代以下の若いアスリート系の肉体があるゴルファーなら、伸張反射を意識して、捻転を大きく取るスイングを追求するのもありでしょう。しかし、40代以降の中高年ゴルファーはそうはいきません。伸張反射は筋肉に掛かる負荷も大きいので、身体を痛めやすいというデメリットがあるからです。
言うまでもないことですが、人間は年を取るほど筋肉の柔軟性が衰え、身体が硬くなります。中年ゴルファーが捻転の大きなスイングを行うと、腰痛や背筋痛などを引き起こしやすいので、正直言ってお勧めしません。
我々アマチュアゴルファーは、プロのような究極のスイングを追求している訳では無いはずです。であるなら、無理な捻転を行わず(特に40歳以降の人は)長くゴルフを楽しめるような『身体に優しいスイング』を目指すべきではないでしょうか?
実はプロゴルファーでもシニアになると、アマチュアでも真似しやすい、身体の不可が小さいスイングを行う人が増えます。上記はヨーロッパのシニアツアーで賞金王にもなった、海老原清治プロのスイング動画です。トップで左肘は大きく曲がり、右膝も流れているので、捻転する要素は実に小さいです。その分、身体を素早く回すことで、飛距離を出そうとしていますね。
故・杉原輝雄プロも、海老原プロ同様に左肘が大きく曲がってスイングする事で有名でした。新井規矩雄プロのように、身体を全く捻ろうとせず、思いっきりヒールアップして「回転」だけで打つ人も居るのです。シニアツアーには、体を痛めないスイングで参考になるプロが、本当に沢山居て勉強になりますよ。
また増田哲仁氏のように「身体を捻るな(歩くように振れ)」と教えるレッスンプロも居ますし、山本道場の師範=山本誠二コーチも「身体にテンション(負荷)が掛かるスイングはダメだ」と教えています。ゴルフ理論でも、捻転が絶対の正解ではないのです。
世界のトッププロは伸張反射を使った捻転の大きなスイングが主流ですが、一般のアマチュアゴルファーはそんな負荷の大きな動きは意識しなくても良いのです。「左肩がアゴの下に来るまで身体をねじれ」なんて、中年ゴルファーや身体の硬い人には到底無理な動きなのですから。
伸張反射を使うスイングとデメリットまとめ
・伸張反射とは、伸ばしきった筋肉が急激に縮む作用のこと
・大きな筋力が発揮できるが、体を痛めやすいデメリットがある
・アマチュアは捻転など捨てて、身体に優しいスイングがベストでは?
捻転など意識せずとも、身体の回転(遠心力)や振り子の原理(コックの解放)が正しく行えれば、アマチュアゴルファーの平均以上の飛距離は余裕で出せますし、身体に無理がないので正確性も高まります。一般のアベレージゴルファーには「伸張反射」なんて無用の長物ですよ。