ゴルフレッスンにおいて、頻繁に出てくるにも関わらず、教えている人間もよく意味を理解していない事が多い「ゴルフ7不思議」の一つに、タメという概念があります。
ゴルフにおけるタメの意味は、手首のコックと右肘の曲げた角度(約90度)をキープしている事を指します。そして、この手首や右肘が90度の角度を、インパクトの直前まで保たれている状態が「タメの利いたスイング」の正体です。
ゴルフでは最低でも下図のように、ダウンスイングの途中〜グリップが肩から腰の間の高さまでは、手首のコックと右肘のタメをほどかないようにすべきです。理由は単純で、タメが利いたスイングほど飛距離が伸びるからです。
タメが飛距離にプラスに働く理由は、主に3つです。一つはインパクト直前にタメをほどくことで、スナップの力でボールを強く叩けるからです。バレーボールのスパイクやバドミントンのスマッシュでは、ボールを叩く瞬間に手首のリストを利かせて、より強い球を打っていますよね。ゴルフスイングでも同じ原理を働かせれば、ボールの初速を上げられる訳です。
2つめの理由は、タメを利かせて振る方が、スイングスピード(ヘッドスピード)自体を速く出来る事です。右肘や手首を曲げたまま振れば、クラブヘッドが体の近くを通り、回転半径が小さくなります。物体の回転運動というのは、最大半径を小さくするほど、速く回ることが出来ます。物理用語で言う「慣性モーメント」が小さいほど、体を速く回転させられる訳です。
フィギュアスケートを思い出してみてください。真央ちゃんでも羽生くんでも、ジャンプする際には必ず腕を胸の前にひっつけて、回転半径を小さくしますよね。あれは演技としてそのようにしている訳ではなく、空中で3回転も4回転もするためには、腕を畳んで慣性モーメントを小さくしないと、空中で沢山回る事は物理的に不可能だからです。
ゴルフスイングでも同じで、タメを作ってクラブヘッドを身体の近くに持って来るほど、ボディーターンの速度が上がって、ヘッドスピードも速くすることが可能になるのです。
逆に言うと、上図のように手首や右肘が伸びてシャフトが寝てしまい、クラブヘッドが体から離れた回転半径の大きなダウンスイングだと、慣性モーメントが大きくなってボディーターンのスピードが上がらないので、飛距離が出にくくなる訳です。
慣性モーメントの理屈が分かれば、右肘や手首の角度だけでなく、脇が大きく空くスイングもマイナスであることが理解できるでしょう。脇が空くと、シャンクしやすいだけでなく、慣性モーメントが大きくなってヘッドスピードも上がりにくいのです。打ちっ放し練習場で、脇に挟んだタオルを落とさないように振っている人を見たことがありませんか?あれは脇を締めて、小さな回転半径で振る癖を付ける目的のドリルです。
3つめの理由も、ヘッドスピードを上げるという意味では同じで、タメを作ってダウンスイングすれば、テコの原理が働いてヘッドが走ることです。ゴルフスイングにおけるテコの原理については、非常に長い説明となるので別ページを設けて解説します。
ただし、一つ注意すべき問題もあります。実はタメを長く保つほど、正確に球をミートすることが難しくなるのです。
具体的には下記の大森睦弘プロの解説動画を見れば、タメのデメリットを理解しやすいと思います(特に6分あたりから)。要約すると、溜めを作れば作るほど、クラブヘッドがスイングプレーンから外れ、フェースがスクエアになる時間も短いので、インパクトの安定性が下がりやすいと言うことです。
アマチュアにありがちなのが、タメを長く保とうと意識しすぎてインパクトがズレて、シャンクやトップが頻発する事です。タメを作れば作るほど、飛距離は伸びますが、逆にショットが不安定になりがちだというトレードオフ(二律背反)の関係にあるのです。
ゴルフスイングのタメの意味まとめ
・タメとは手首と右肘の角度をダウンスイング中に長くキープした状態
・溜めが長いほどヘッドスピードが上がり、飛距離が伸びる
・タメを長くするほど正確なミートが難しくなるデメリットがある
一方で、上記の動画でも紹介されているように、手首の横コック(ヒンジング)は、いくら長く溜めてもスイングプレーンから外れず、フェースの向きも一定です。当サイト管理人も、縦のコックは極力行わず、ハンマー打法やオースチン打法のように横のコックを使って、スナップを効かせたスイングで飛距離アップを狙う方が合理的だと思います。
プロゴルファーの中でも、例えば笠りつ子プロのように、完全ノーコックでスイングする人も居るくらいです。手首を縦にコックすることは、ゴルフスイングに不可欠な要素では無いのです。ミートが安定せずにトップやシャンクが頻発する人は、スイングのタメは右肘のたたみと(グリップが体から離れないように)脇を締める事だけで作る、ノーコックスイングを練習してみるのも良いかもしれませんよ。